Hint! file08 水木祥子氏(ひろしま美術館 主任学芸員)

公益財団法人ひろしま美術館主任学芸員。1999年広島大学文学部西洋史学科卒業。2001年広島大学大学院 社会科学研究科 国際社会論専攻修了。2001年財団法人ひろしま美術館に就職。ひろしま美術館で開催された、「棟方志功展」(2001年)、「りんごの秘密展」(2003年)、「プラート美術の至宝展」(2004年)、「こどものともの絵本展」(2006年)、「わたしが選んだいわさきちひろ展」(2009年)、「セーヌの流れに沿って」(2011年)他多数の展覧会・図録執筆に携わる。「日本の印象派・金山平三展」が2012年11月4日まで同美術館にて開催中。

憧れの職業「学芸員」に

社員O

水木さんが学芸員を目指されたきっかけはなんだったんですか。

水木

もともと母親が絵を見たり、描くことが好きで、幼稚園の頃からよく美術館に連れていってもらっていたんです。その影響で私自身も絵を見ることが好きになり、また歴史も好きだったので、高校の時、学芸員という存在を知って以来、志すようになりました。その後、学芸員資格をとるため、広島大学文学部に入学して西洋史学を専攻、特にルネッサンスを研究していました。大学院では美術史をさらに専門的に学びました。学生時代は、広島県立美術館でギャラリートークのボランティアもしていたんですよ。

社員O

まさに夢に向かって一直線という感じですね。

水木

そうですね。学芸員という職業はもともと募集が少なく、県内でも滅多に募集はありません。そんな中、私が大学院を卒業するまさにその年の12月に、しかも普段から通っていたひろしま美術館で奇跡的に募集があったんです。

社員O

努力されてきただけに運命的なものを感じますね。夢の職業に就いてどうでしたか。

水木

学芸員の仕事は多岐にわたります。展覧会の企画、所蔵品の選択、ワークショップやギャラリートークの開催などに加え、貴重な美術品を貸し借りする際に同行し、状態を確認することも大切な仕事です。普段美術館でお客様と接しているイメージとは異なり、トラックの助手席に乗って全国各地を飛び回ることもしばしばです。意外にも体力仕事で最初は驚きましたね(笑)。ひろしま美術館は3人の学芸員が在籍しており、1年間に1人1本の展覧会を担当するようになっています。数年に一度企画する、美術館独自の企画展ともなると、3人の学芸員が総動員で掛かりきりの状態に(笑)。だから、特別展を開催できる回数は年に4回程度ですが、1人の学芸員が1つの特別展に2年間かけて準備をし、全工程に携わるので、魅力的な仕事である反面、とてもハードな仕事でもあると感じています。

Hint! file08 水木祥子氏(ひろしま美術館 主任学芸員)

経験や積み重ねでの成長

社員O

大学ではルネッサンスを研究されていたとのことでしたが、印象派の所蔵作品の多いひろしま美術館では勉強の毎日だったのではないでしょうか(笑)。

水木

本当に展覧会ごとに勉強しなければならない状況です(笑)。ひろしま美術館は、原爆で傷ついた広島の市民にとって安らぎの場になってほしいという初代館長の想いから生まれた美術館ですから、西洋絵画の中でもルネッサンスの宗教画や神話画よりも、近代の風俗や風景を描いた、私たちにも「親しみを感じられる」印象派の作品を中心に収集しています。特別展もそれにちなんだ作品を扱うことが多いため、全く違うジャンルの作品について勉強しなければならないということはないのですが、図録やキャプションを作ったり、お客様にもお話できなければならないので、美術館の図録や資料を調べて、一から勉強しなくてはなりません。私はもともと話すことが苦手だったので、ギャラリートークや講演会などお客様の前でお話をする際にはよく緊張していましたね(笑)。ですが、学芸員になって今年で11年目。場数を踏むしかないという気持ちで続けてきた結果、今では緊張せずに話せるようになりました。

社員O

進化、挑戦というと大げさですが、続けていくことで時間が解決してくれる問題も多いですよね。

水木

何事もそうですが、時間をかけての積み重ねが大切なのかもしれません。

Hint! file08 水木祥子氏(ひろしま美術館 主任学芸員)

あまり知られていない作家の魅力を伝えていく

社員O

ときにはあまり興味の持てないような作家を担当することもあるのでは(笑)。

水木

そういうこともありますね(笑)。しかし、展覧会を開催するにあたり詳しく調べていくと、どんな作家でも時代背景や人物像など、それまでとは異なる様々な面が見えてきます。作家の意外な一面を見つけていくうち自然と好きになっていきますし、それをお客様にも伝えていきたいと思うようになります。モネやゴッホなど有名な作家の展覧会ばかりをやっていれば、お客様も多いのでしょうが(笑)。所蔵作家の中でも、まだ知られていないけれど良い作家は数多くいます。そのように知られていない作家を世の中に紹介していくことも学芸員の仕事です。なかなか常設展だけでは見に来ていただけないので、テーマ展で取り上げていくことで常設作品の魅力も知ってもらえたらと思います。現在開催している(2012年11月4日まで)「日本の印象派・金山平三展」もそのような作家の一人なのですが、お客様からは「初めて見たけどすごく良かった」という感想も頂いているんですよ。

社員O

そのような感想が学芸員としてのやり甲斐につながっていくんでしょうね。

水木

そうですね。巡回展でも、企画展でも、どうすればお客様にその作家をよりよく知ってもらうことが出来るかを念頭において企画します。施設は決まっているので、どの作品を正面に飾れば効果的か、隣同士の配置、流れや分類など展示の配置を考えている時が一番楽しいですね。

社員O

母親がわが子を送り出すような気持ちなのでしょうか(笑)。

Hint! file08 水木祥子氏(ひろしま美術館 主任学芸員)

未来のファンを育てるために

社員O

学芸員の目から見た美術館の魅力はどんなところですか。

水木

先ほどもお話したように、巡回展であっても会場ごとに展示の仕方は様々です。作品は同じですが、展示ケースなどの施設・設備的な制約や、その美術館の学芸員の考え方、美術館の特色が、レイアウトや魅せ方に反映されているんです。それを見比べるのも面白いかもしれません(笑)。実際に、前回の「薔薇と光の画家 アンリ・ル・シダネル展」でも東京、京都、広島と各会場を回遊されている熱心なファンがいらっしゃいましたよ。

社員O

それはすごいですね。

水木

来年夏には初の試みでひろしま美術館、広島県立美術館、広島市現代美術館が「ART・ARCH・HIROSHIMA」と題して、同じテーマでの展示を行う予定です。広島市内の3美術館が、共通のテーマをどうのように展開するのかが見どころですね。

社員O

水木さんがこれから挑戦していきたいことはありますか。

水木

プライベートでは子どもが欲しいなとは思っていますが(笑)。子どもができたら、私の母がしてくれたように幼い頃から美術館に通うようにしたいですね。今、ひろしま美術館では小学生を対象にバス送迎付きの無料招待事業を行っています。大変人気の高い事業で、今年も県内の小学校から6千人ものご参加をいただきました。とはいえ、その中でも興味を持って絵を見てくれる子どもはごく一部なのですが(笑)。以前、招待事業で来館した子どもが、その後「良かったから」と言って、来館してくれたこともあります。このような事業を行うことで、一人でも多くの美術ファンが育ってくれればと願っています。

社員O

その中から未来の学芸員や作家が現れるかもと思うと、とても夢のある事業ですね。

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2012.11 掲載

えんぎもん 海外からのメッセージカード

「結婚してすでに6年になりますが、実は結婚直前の2年間、夫はバックパッカーをして世界各国を飛び回っていたんですよ(笑)。」忙しい日々の中で水木さんが元気づけられていたのは、学生時代から11年間お付き合いされていたというご主人が毎月旅先から送ってくれたというメッセージカード。都合よく長期休暇がとれた際には、水木さんも同行されていたとか。ご主人は、中国、インド、チベット、イラン、最終的にはケニアまで回られたそうです。「現地でテロがあったと聞いた時にはさすがに不安に感じましたね。定職について6年、本人はそろそろまた旅に出たいと思っているようです(笑)。」感性を活かすお仕事だけに、そんなご主人は水木さんにとってインスピレーションの源なのかもしれませんね。

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