file19 山本浩二氏(元広島東洋カープ・野球解説者)

1946年広島市佐伯区生まれ。県立廿日市高等学校ではエース・4番打者として活躍。法政大学に進学し、田淵幸一、富田勝と共に「法政三羽ガラス」の異名を取り、法政黄金時代を築き上げる。68年にドラフト1位で広島東洋カープに入団。チームの主力として活躍し、75年には自己最高の成績を記録し、MVPを獲得。カープ初優勝に貢献した。「ミスター赤ヘル」の愛称で親しまれ、背番号「8」は球団史上初の永久欠番となっている。カープの監督に就任し、91年にリーグ優勝を達成。第3回WBC日本代表監督としても采配を奮った。

計り知れない黒田効果

――

今年は特にカープに対する“優勝”の期待が大きいですね。

山本

野村謙二郎監督が5年間徐々にチーム力を上げながら若い選手を育てて、クライマックスシリーズ2年連続進出、その続きが今年なんですよね。引き継いだ緒方監督は自分に厳しい人間ですから、チームをしっかりまとめることが出来るんじゃないですかね。あとは、何と言っても黒田の加入が一番です。計算できる勝ち星が増えるだけでなく、チーム全体に与える影響が大きいですね。メジャーの第一線で投げてきた選手が、キャンプで若い選手と一緒にやっていますけど、選手全員が黒田に注目しています。その中で完成されたピッチングを見せていますね。

――

黒田選手にはカープファンだけでなく、全国の野球ファンも注目しています。

山本

ベテランのピッチャーになると自然と体が開いてしまうんですが、黒田の場合はそれが全く無い。理想的な投げ方をしています。歳をとっても、いい投げ方をすれば疲れないという方法をメジャーでやってきたから、そういうフォームを身に付けています。他のピッチャーとも全然フォームが違いますからね。皆が頭の中で黒田の投げ方がピッチャーにとってベストだと分かっているけど、そう簡単にはできないですね。

――

黒田選手の加入はカープにとって本当に大きいですね。

山本

特に若い選手に与える影響が大きいですね。黒田が数多く登板できれば、勝ち星が増えるだけでなく、周りのピッチャーもそのフォームを見習う機会が増えますから、それぞれがレベルアップする可能性があります。そうなれば、おのずと優勝が近づいてきますね。

Hint! file19 山本浩二氏

優勝への近道は“平常心”

――

多くの広島県民が優勝を期待しているわけですが、75年の選手時代に優勝を経験したときのことを教えてください。

山本

あの頃は、今と同じように優勝候補とは言われていなかったですね。カープはいつも出足が良くて、5月過ぎに調子が落ちてきます。だけどあの年は、夏まで調子が落ちなかったですね。そうすると、ひょっとしたら優勝するかもと皆が思い始めたんですね。それまでは、優勝争いもやったことなかった…ということは優勝という意識が頭の中に無かったんですね。優勝を意識し始めると、突然プレッシャーが掛かってきます。何としても勝ちたいから、誰でもいいから打ってくれ~と願ったり(笑)。そうしているうちに、自然とチームが形になってきたというのを覚えていますよ。

――

優勝を意識し始めてからが大変だったんですね。

山本

そう、優勝するのは本当に大変なことなんですよ。今のチームには優勝経験がある選手は誰もいないから、優勝を意識して戦っていると良い結果は出ないと思いますね。とにかくがむしゃらにやる。周りは優勝を期待していますが、そう強く意識せず、がむしゃらにやることが大事です。

――

昨年はあと一歩のところでリーグ優勝を逃しました。やはり選手たちにはプレッシャーがあったのでしょうか。

山本

シーズン終盤まで首位争いをして、巨人にあと一歩まで迫ったところで3連敗。選手たちも勝てば首位に立つと意識していましたから、相当プレッシャーがあったでしょうね。優勝の意識を持たないで、がむしゃらにやることが大事でした。

――

91年には監督としてリーグ優勝を達成しましたね。

山本

あの時は選手の動きが8月過ぎから急激に良くなって、チームがひとつになりました。個々の成績が良ければ、チームの成績も上がっていくんだという意識を皆が持っていて、75年初優勝の時と同じような雰囲気でチームがまとまっていった気がしましたね。

――

ファンの期待は嬉しい反面、プレッシャーにもなると思いますが、それを克服するためには何が大事なんでしょう?

山本

一番大事なのは、普段通りにプレーすること。優勝を意識しながらプレーしてはダメです。一番難しいんですがね、平常心を保つってことは。いかに自分のプレーを普段通りできるか。いかにがむしゃらにやれるか。そうすれば、優勝という結果は付いてくるんじゃないかと思いますよ。

Hint! file19 山本浩二氏

技術よりも精神面を鍛える

――

昨年カープは悔しい思いをしましたが、今年はそれを経験している分、プレッシャーを克服できるのではないでしょうか

山本

もちろんそれはありますよね。若い選手も優勝争いのプレッシャーを経験していますし、二位と優勝は全然違うということも実感しています。その壁を乗り越えるには、チームがひとつにならないといけない。だけど、ひとつになりなさいと言われても簡単にできるものじゃないですから、何かのきっかけとか、何かがないとできませんよ。

――

色々な取材でも聞かれたと思いますが、今年のカープは優勝が期待できますか?

山本

できます。丸や菊地のような若くて有望な選手が出てきて、チームを引っ張っていく。さらに球界屈指の投手陣の中に黒田が加入してくれましたからね。優勝したいという気持ちを心に秘めて、試合ではいかに平常心で挑めるかが大事ですね。

――

これまでの野球人生で「挑戦」してきたことを教えてください。

山本

選手の時は、とにかく良い成績を残したい。初優勝したあとは、もう一度優勝したい。優勝の味というのは、個人の成績を上げるよりも数段嬉しかったですからね。優勝を何度でも味わいたいと思えたから、昭和50年代に黄金期を築くことができました。自分が打てなくてもチームが勝てればいい…本当にそういう気持ちになっていましたね。それほど優勝というものは感動できました。そのために自分のやってきたことは、いかに持続して1年間やり通すか。例えば、シーズンが終わるまで筋トレを一日も休まずやっていました。自分に課したノルマとして。精神的にも、これだけやっているんだからと身体が覚えてきて自信が付いてきます。自分の成績を上げればチームも良くなると思っていましたし、怪我をしないようにも気をつけていました。色んなことをやっていましたね。ラクなことは無かったですね、苦しいことばかりでした。

――

落ち込んでいたときやスランプのとき、どのように克服していたのですか?

山本

色々とやってみましたけど、最終的にはいかに数多くバットを振るかでした。人間は精神的なものが大きい。技術よりも精神面が7~8割、それをいかに強くできるか。野球で言えば人一倍練習して、自分に課したノルマをしっかり達成する。1日の積み重ねが毎年の積み重ねだと思いますよ。

――

精神面を鍛えるには、自分に厳しくという訳ですね。

山本

プロ野球の世界に入る選手は、基本となるプロレベルの技術や体力を持っています。一流選手との違いは何かというと精神面。体力や技術と違って鍛えられたかどうかは見えません。ですが練習で自分を鍛えていけば、身体がそれを覚えて自信になります。それが精神面の強さに変わってきます。

Hint! file19 山本浩二氏

忘れられない優勝パレード

――

今までの人生の中で、影響を受けた人はいますか?

山本

やっぱり歴代の指導者ですね。大学時代の松永監督、カープ入団時の根本監督、そして初優勝の時の古葉監督。厳しい指導者ばかりでしたね(笑)。人間ってラクをしたいじゃないですか。だけど、ラクをして良い成績を残したいと思ったら、まず良い結果にはなりません。特にこの3人の恩師には厳しく教えられましたね。

――

監督やコーチと方針や意見が合わない時があったと思います。そういう時はどうしていましたか?

山本

そういう時は自分に言い聞かせていましたよ。受け入れられない言葉だった場合、それをそのまま受け止めるのではなく、自分が受け入れられる言葉に置き換えて受け入れていましたね。怒られたくないから逃げるのではなく一生懸命やる。それが自分の成長につながりました。ライバルに負けたくないから人一倍やる。その積み重ねでしょうね。

――

野球から学んだ大切なことを教えてください。

山本

人間関係。野球はチームプレイでやっている訳ですから、普段からの人間関係が本当に大事になります。チームのためにできることを色々な選手と話をしましたね。そういう仲間たちと優勝を味わうことができたのは最高でした。

――

それほど優勝というのは別格というわけですね。

山本

今でも平和大通りの優勝パレードは忘れられません。30万人ものファンが集まってくれて、「ありがとう」と言ってくれた。優勝するまでは本当に大変でしたからね。スポーツ王国広島は皆が監督ですから、勝てない時のファンの声はきつくて…でも、その厳しい声に打ち勝ちたかったですね。それが優勝したときに「ありがとう」に変わって、感激しましたね。

――

これから「挑戦」したいことはありますか?

山本

ずっと野球界にお世話になってきましたから、これからも野球のためにできることがあれば進んでやっていきたいですね。名球会の理事長にも任命されましたし、国内外の野球界の発展のためにできることがあれば何でも。野球人口の底辺を広げるためにも、子どもたちに野球の素晴らしさを伝えていきたいですね。

Hint! file19 山本浩二氏

2015.4 掲載

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