file16 大仁邦彌氏(日本サッカー協会会長)

1944年兵庫県生まれ。慶応大学を経て70年に三菱重工業へ入社、同サッカー部でDFとして活躍。日本サッカーリーグ(JSL)を2回、天皇杯は3回優勝。日本代表に選出され、西ドイツW杯予選などを戦った。現役引退後は指導者となり、三菱重工業サッカー部監督、日本代表コーチなどを歴任。また、『三菱ダイヤモンド・サッカー』(テレビ東京)などで解説を務めた。92年にJFA入りし、強化委員長、技術委員長などを歴任。Fリーグ創設や女子サッカーの強化にも尽力。12年に第13代日本サッカー協会会長に就任。JSL通算119試合出場、1得点。国際Aマッチ通算44試合出場。関わったフットサル日本代表、なでしこジャパンが躍進するなど、実力とツキを持ち合わせており、人柄の良さは協会内でも評判。

広島には期待している

K

昨年、サンフレッチェ広島がJリーグ初優勝を果たし、今年も優勝争いをしています。広島のサッカー界についてどのような印象をお持ちでしょうか?

大仁

私も選手をやっていましたから、その頃の広島は本当に強かった。日本代表選手を輩出していた名門の土地という印象です。それがようやく復活してきたのかなと、嬉しいですよ。広島出身の名選手も大勢いましたからね。

K

サンフレッチェ広島の特徴のひとつに、ユースからじっくり育ててトップの選手にしていくという育成方法があります。

大仁

サンフレッチェユース(アカデミー)は、内容のいいサッカーを続けて高円宮杯で3連覇を果たしましたね。この実績を評価して、森山さんにU-15日本代表のアシスタントコーチをお願いしました。若い世代を育成していくことは日本サッカー界にとって必要不可欠なことなので、サンフレッチェが育成をしっかりやっているということは非常にありがたいですね。

K

若い選手を育てて地元の代表にしようという方針は、Jリーグの理念にも合っていると思います。

大仁

そうですね。クラブが自分たちで選手を育てていくんだという姿勢、「サンフレッチェはこう戦うんだ」と全員が戦術を理解して戦っている団結力。広島はJリーグのなかでも、いいチームだなと感じています。

Hint! file16 大仁邦彌氏

サッカー専用スタジアムがある幸せ

K

いま広島ではサッカー専用スタジアム建設の機運が高まっていますが、スタジアムを作る意味を教えてください。

大仁

まずは、サッカー専用スタジアムで見ると試合の迫力が全然違いますよね。やっぱりサッカーの面白さを知ってもらうには、専用スタジアムが一番です。それから、サッカーの試合は週に一度ぐらいしかないですが、街中なら上手く使えば普段から人が集まる場所にもなります。欧州のスタジアムにはレストランやスポーツジム、会議場が入っていたりします。そういう機能を備えれば、試合がない日でも多くの人が行き交う場所になると思いますね。それから、避難場所としても使えるので災害対策にもなります。ぜひ、街中にスタジアムを作ってもらいたいですね。

K

サッカーに関心が無い人にとって、街中に作る意味が理解されないこともあります。

大仁

欧州のほとんどのクラブのスタジアムが街中にあって、人々の生活はそこが中心になっています。サッカースタジアムは、街を活性化する核となる施設だと思いますね。一度、欧州のスタジアムに連れて行ってあげたらいいですよ。銀行が入っていたり、スーパーマーケットが入っていたり、アイデア次第で色々な使い方ができます。広島ならお客さんが入りますよ。街中だったらすぐに行ける。カープが使っていた球場跡地という、いい場所があるじゃないですか。

K

その他にも広島のサッカー界に期待していることがあれば教えてください。

大仁

いまJリーグは厳しいなかで色々とやり方を変えようとしているんですが、中四国地方で唯一のJ1クラブであるサンフレッチェが成功してくれるかが大事なところだと思います。そういう意味では、非常に頑張ってくれていますね。色々な地域にクラブが育っていくことが大事なので、広島には期待しています。強いチームを作って、地元の人から愛される存在に育ってもらえるとありがたいですね。

Hint! file16 大仁邦彌氏

日本代表が「進化」したヒミツ

K

日本代表についてお聞きします。日本代表が大きく成長して、世界と戦えるまでに「進化」した要因を教えてください。

大仁

サッカーというのはすぐに強くなるスポーツじゃないので、日本代表がここ数年で急に強くなった訳ではないんです。今までやってきたなかで、指導者の養成制度を40年以上前にスタートさせたことが要因のひとつです。日本サッカーを強くするには、まずは指導者のレベルを上げなくてはいけない。指導資格が5段階あって、取ったら終わりではなくて更新する必要があります。それと同時に、ユースの育成(トレセン)にも力を入れました。やはり将来を考えたときに、若い頃から世界基準を認識させるということが大事ですね。この長い年月をかけた真面目な取り組みが、ようやく実ってきたのだと思います。そして、93年にJリーグが誕生して、世界各国の名選手や指導者が日本にやってきて、日本サッカーのレベルが一気に上がりました。この3つが日本代表を「進化」させた大きな要因だと思います。

K

日本代表はアジアのトップレベルになりましたが、世界の強豪と比べるとまだまだ開きがあると思います。その差を埋めるためには、何が必要でしょうか?

大仁

それが一番難しいですね(笑)。今までW杯を優勝した国は8カ国しかなくて、トップレベルの国には長い歴史があって…という言い訳はしたくないんだけど(笑)、ここから先は普段からどれだけ多くの選手が世界レベルの経験ができるかが重要になってくる。海外でプレーする日本人選手が増えたけれど、Jリーグのレベルも上げていかなければ世界には追い付かない。Jリーグのレベルを上げるためには、アジアのレベルが上がらなくてはならない。そして今よりも、多くの日本人選手が海外でプレーする必要があると考えています。

K

コンフェデ杯での対ブラジル戦を見たときに、埋めがたいレベルの差があると感じてしまいました。

大仁

この間、セルビアと強化試合をしましたが、セルビアはW杯に出られないんだけど本当に強い。やっぱり、欧州リーグの高いレベルのなかで普段からプレーしているから選手一人ひとりのレベルも非常に高い。日本もそういう環境を普段からいかに作っていくかが大事ですね。

K

日本サッカーの強化を担うJリーグの「進化」も必要だと思います。

大仁

大事なことは、一試合一試合の内容です。試合がつまらなければ、選手の技術がいくらあってもお客さんは来ない。Jリーグがスタートした頃は、今と比べると下手だったけれど、とにかく必死にプレーをしていたとよく言われます。どの選手も気合が入っていて、熱気があって…そういう気持ちが伝わって、スタジアムも盛り上がっていたのではないでしょうか。あの頃の熱気をもう一度取り戻せないかなと思っています。今の選手は上手いけれど、試合自体の熱さが感じられなくなってきた。もっと選手たちが熱く戦える何かが必要なのかもしれません。

Hint! file16 大仁邦彌氏

日本が世界レベルになるために

K

アジアに目を向けると、Jリーグ勢はACLで勝てなくなっていますね。それにアジア各国のリーグのレベルも上がってきています。

大仁

特に中国はリーグのレベルが一気に上がって、ACLにも色々な支援を行って力を入れている。ACLで勝って注目を集めることによって、アジア市場を狙うことができます。しかし、日本はACLよりも国内リーグを優先するクラブが多いのが現状です。そこは意識を変えてほしいですね。あまりACLで勝てなくなると、アジアでのJリーグの価値が下がってしまう。

K

日本サッカー協会もACLを戦うクラブのために支援を行っていますよね。

大仁

サポートプロジェクトに本腰を入れて色々な支援を行いましたが、今年は柏レイソルの準決勝進出で終わってしまいました。今後もACLで勝てる環境を作る必要があると思っています。ACLで勝ったらリーグ戦にも勝ち点を加えるとか、いいと思うんだけど(笑)。JリーグのクラブもACLを勝ち抜くために、意識を変えていってほしいですね。

K

Jリーグから選出される代表選手が少なくなっていますが、この点はどうお考えでしょうか?

大仁

それはやむを得ない。昔、子どもたちはJリーガーに憧れていましたが、今では海外でプレーすることを夢見ています。トップリーグでプレーしたいと小さい頃から思うのはいいことです。でも、日本代表の選手たちはJリーグを経て海外で活躍しています。海外で活躍する選手のベースはJリーグにある。それは変わっていない。若い選手たちがJリーグで活躍することでリーグ自体も活性化する。そのうち、海外でプレーした選手が日本に帰ってきて、若い選手たちと一緒にプレーをして経験を伝える。そういうサイクルができることを願っています。

K

大仁会長は女子サッカー発展のためにも尽力されてきました。なでしこジャパンがドイツW杯で見事優勝を果たしましたが、その後の女子サッカー界の目標を教えてください。

大仁

なでしこジャパンがドイツW杯で優勝したあと、どの国も日本を熱心に研究していて、女子日本代表の各世代も世界でなかなか勝てなくなってきています。そういうなかで、これからどうするのかを考えて、もう一度チャンピオンを目指そうとやっているところです。それから、女子選手の登録数が現在4万人弱なんですよね、それをもっと増やして色々なタイプの選手が代表に入ってきてほしい。なでしこリーグも盛り上げていって、女子サッカー界の底辺も広げていくことが大事ですね。

Hint! file16 大仁邦彌氏

2014.6 掲載

えんぎもん engimon16 とんかつ

「日本代表の試合があるときは、とんかつを食べます。小倉名誉会長が会長のときからで、大事な試合がある前には近くのとんかつ屋に行って、会長のお金でみんなで食べる。そして試合に勝った後は、お礼に食べに行って副会長だった私が払っていました。そういえば、会長になってからあまり行ってないな…だから日本代表が調子悪いのか(笑)。コンフェデ杯のときもブラジルでとんかつ屋を探したけど無くて、欧州遠征のときも無かった…。なでしこが優勝したドイツW杯のときは、現地で必死に探して、定休日だったけれど開けてもらってとんかつを食べました。それぐらいですね、我々にできることは(笑)」 げん担ぎはしない方だと言っていた大仁会長ですが、日本代表のために必死に“えんぎもん”を探していました。世界のどこかでとんかつ屋を探している会長を見かけたら、ぜひ美味しいお店を教えてあげてください!

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