file12 尾野寛明氏(有限会社エコカレッジ 代表取締役)

1982年埼玉県生まれ。一橋大大学院商学研究科博士課程修了。学生時代に専門書と教科書の古書販売を起業。2001年にネット通販古書店「エコカレッジ」を設立。2006年に本社丸ごと島根県の山間部へ移転させ、年々業績を伸ばしている。「過疎と戦うインターネット古書店」として注目を集め、新聞各紙や経済誌にも登場。各地で行われる地域活性化をテーマにした講演会に招かれ、NPO法人「てごねっと石見」副理事長も務めている。

専門書買取のエコカレッジWEBサイトhttp://www.eco-college.com/

19歳で起業できたアイデア

社員K

会社を設立してから何年になりますか?

尾野

いま31歳なんですが、会社を設立したのが学生時代だったから、今年で12年になります。どんなキャリアなんだよってよく言われますが(笑)。

社員K

起業したのが19歳の頃ですか!それは、どんなきっかけで?

尾野

高校時代に予備校仲間と、『何か将来プロジェクトをやってみたいね』とよく話していました。そして大学に入ってから仲間と再会して、夜な夜な集まってビジネスプランを考え始めたんです。そこから仕事のアイデアが生まれてきました。

社員K

どうして古書販売を始めようと。

尾野

まずは手っ取り早いことをやろうと、単純な考えです(笑)。大学に入って、教科書を買わされるわけですが、高い!これは何とかしなくちゃいけないと思い、学生同士が使わなくなった教科書を融通し合えるような仕組みができれはいいなあ、と考えていたわけです。

社員K

なるほど。たしかに大学の教科書は高いですからね。

尾野

それで、先輩たちから教科書を安い値段で譲ってもらい、転売するという小遣い稼ぎを始めたんです。ブックオフでインターンの経験をして、古本ビジネスにも詳しくなりました。

社員K

ネット通販というのは、当時そこまで主流ではなかったと思いますが。

尾野

ヤフオク(Yahoo!オークション)がようやく注目され始めた頃でしたからね。ネット通販のAmazonや楽天もまだ出てきていなかった。テレホーダイ(23時~翌日8時まで定額制になるというNTTのサービス)の時間になるまで、ネット接続禁止って言われていましたから(笑)。

社員K

なつかしい(笑)。では、当時はネットではなく手売りをしていたんですね。

尾野

大学のキャンパスにワゴン車を乗りつけて、教科書買い取るよ!というビラを撒きました。そうしたら、もの凄い量の教科書が集まって、その場で即売会です。特に早稲田の学生は食い付きが良かった。近隣のお坊ちゃま大学では無視されましたけど(笑)。

社員K

とのときは、どれぐらい売れましたか?

尾野

2時間で10万円。

社員K

それは凄い!ボロ儲けですね。

尾野

この経験でビジネスのきっかけを掴みました。だけど、大学の警備員に見つかって、先生方からもこっぴどく叱られましたよ。

Hint! file12 尾野寛明氏

ネット販売で新たな発見

社員K

大学での教科書販売ができなくなって、その次の手は?

尾野

売れ残った本が2000冊ぐらいあったので、ネットで古本販売をしていたイージーシーク(楽天オークションの前身)というサイトに出品してみたんです。

社員K

反応はどうでしたか?

尾野

早稲田の学生から買い取った教科書が、なぜか全国の学者や研究者たちに売れたんです。その現象を目の当たりにして、発想の転換が起きました。教科書のリサイクル販売だけでなく、中古の専門書を全国にネット販売すれば、ビジネスチャンスが広がるのではないかと気づきました。そして2001年、東京都文京区にエコカレッジを設立したんです。

社員K

専門書の古本をネットで売るという、今のビジネスモデルを見つけたんですね。

尾野

そんなとき、amazonでの中古販売が始まりました。そこでも出品したら、すごい勢いで売れて売れて…まさに入れ食い状態。専門書を出品している店は他になかったですからね。

社員K

その成功を受けて、古書販売一本でやっていこうと?

尾野

それでも、この仕事で飯を食っていこうという気持ちは無かったですね。当時はかなりの数の学生が会社に出入りしていたので、他の人に会社を任せて、自分は半年ほどインドへ行きました。会社経営に没頭し過ぎて視野が狭くなるのが嫌だったので、外の空気を吸おうと。インドではITの仕事をしましたが、基本的にはフラフラしていた(笑)。将来、何をしようか全く考えていなかったので。

社員K

会社経営を続けていこうという考えもなかった?

尾野

そうですね。帰国してからも会社経営は他人に任せっきりで、自分はゼミに入ったんです。地方の産業振興を研究しているゼミで、そこでも日本全国をフラフラしていた(笑)。そうこうしているうちに、ゼミの活動にハマッてしまい、そのまま大学院に進んだんです。将来何をするかという結論はとりあえず保留にしようと(笑)。

社員K

会社を続けるか、就職するか本当に考えていなかったんですね。

尾野

地方の山間部や過疎地での取り組みを見ていくなかで出会ったのが、島根県川本町です。この町は、唯一あった書店が無くなってしまった。町おこしをするにあたり、書店を再生したいと思っていたわけです。そういう話をしていくなかで、『東京で古本屋を経営している』と、ポロッと言っちゃたんです。そうしたら、町の人たちから『ぜひ川本町でもやってくれ』ということになってしまい…。

社員K

会社のメンバーは反対しなかったんですか?

尾野

ちょうどその頃、メンバーたちは就職活動が上手くいっていて、会社には自分しか残っていなかった(笑)。経営もマンネリ化していたので、会社をまるごと島根県に移したら面白い社会実験になるんじゃないかと思い、わずか三ヶ月で移転を完了しました。その実験結果を大学の論文にまとめて、書店経営は終わりにしようと…そのぐらいの気持ちだったんですが、なぜか上手くいってしまって(笑)。

Hint! file12 尾野寛明氏

いかに面白いと思えるか

社員K

上手くいった要因は何ですか?

尾野

家賃ですね。当時、東京での家賃は10坪10万円でした。それが島根に来たら100坪1万円!専門書は大きくて場所も取るし、回転率も悪い。それまで保管コストに悩んでいたのですが、それを極限まで安くすることができた。そうしたら業績も一気に良くなって、売り上げも5倍ぐらいになりました。

社員K

過疎地でやるメリットは他にもありますか?

尾野

支援制度が充実している。空き店舗に入居するときに家賃補助が出るのは驚きました。あとは、自分のような人間に銀行がお金を貸してくれる(笑)。東京では考えられないことですよ。それと、ご近所さんが本当に優しいですね。

社員K

移転1年目から上手くいったんですか?

尾野

1年目は無茶苦茶(笑)。東京に古本を仕入れに行ったりするので、自分はほとんどお店にいない。なので、本の発送もままならないし、電話応対が全くできない。最初は結構苦労しましたね。

社員K

保管倉庫のようなお店ですが、お客さんは来るんですか?

尾野

お客さんは1日平均0.5人。売り上げの99%はネット販売なので、配達のトラックが来る方が圧倒的に多い。でも、地元の賑わいのために、商店街のシャッターをひとつでも多く開けるということが大切だと思っています。

社員K

お話を聞いていると、計画的ではなく偶然の流れに上手く乗ったという印象も受けます(笑)。

尾野

島根県と出会うためにゼミに入ったわけではなく、会社経営もいい加減だったのに、本当にたまたまですよ(笑)。いままで積み重ねてきた伏線があって、偶然が色々と絡まったとき、いかに面白いと思えるかが成功の秘訣かもしれませんね。

社員K

有名大学の院生にまでなって、一流と呼ばれる企業に進む道もあったと思いますが、そういう道は考えましたか?

尾野

考えなかったですね。高校3年の頃にモーレツサラリーマンだった親父が病死したので、それが反面教師だったのかもしれません。身体を壊すまで会社のために働くよりは、若いうちから自分のやりたいことをやっていこうと。それでも、周りの仲間が出世していって、いい給料を貰っているのを聞くと羨ましいなあ、と思ったことは正直ありましたけどね(笑)。

Hint! file12 尾野寛明氏

田舎は助っ人を求めている

社員K

尾野さんが今後、挑戦していきたいことはありますか?

尾野

「てごねっと石見」のような町おこしをするNPOをもっと立ち上げたいですね。今まで多くの町おこし事業に関わってきたんですが、ようやく自分が得意な仕事の領域が分かってきた。

社員K

それはどのような仕事ですか?

尾野

助っ人外国人のような人材を探して、過疎地に連れてくる。『あなたは東京だと三軍だけど、田舎ではすぐ一軍になれますよ』という悪魔の囁きをするわけです(笑)。田舎の人たちから、『尾野2号を連れて来い』という指令も受けているので、そういうスカウトマンのような仕事をやっていきたいですね。

社員K

連れてくるなら誰でもいいという訳ではないですよね。

尾野

田舎は若者に定住してほしいと思っていますが、ただ単にのんびり暮らしたいと思っている人は必要だと思っていません。欲しいのは仕事をつくれる人。地域を盛り上げてくれる人材が必要なんです。

社員K

そのためにも尾野さんのような人がいたら力強い。

尾野

知恵や力のある人が新たな人を呼んで、エネルギーを生み出す人材がどんどん集まっていく。そんな地域活性化のドリームチームを作りたいですね。最終的には、『もう尾野なんていらないよ』とポイ捨てされる…それぐらいの人材を見つけて、自分が必要ないぐらい盛り上がってくれたら嬉しいです(笑)。

Hint! file12 尾野寛明氏

2013.5 掲載

えんぎもん engimon12 乗り物

毎月何度も東京と島根を行き来している尾野社長。長距離移動は大変に感じていると思いきや…。
「趣味というのが全く無いんですが、楽しみといえば乗り物ですね。だから長時間の移動も苦ではない。いまだに飛行機に乗る前日はワクワクしています。乗っている間も、『やっぱり新しいエンジンはいいな』とかブツブツ言っています(笑)。そうしているうちに、体調が良くなっていくんですよ」
講演で全国各地に行くときは、尾野流の楽しみ方があるそうです。
「地方のマニアックな乗り物はいいですね。この前、札幌に講演で呼ばれたときに、雪まつりそっちのけで、ローカル特急に夢中になっていました(笑)。せっかくの雪まつりなのに、時刻表ばかり見ていたなあ」
これからさらに、各方面で注目を集めていくであろう尾野社長。次はどんな乗り物で移動できるのか楽しみですね!

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